Pocket

今、伊藤計劃の『虐殺器官』を読んでいます。
主人公がチェコ語の教師(昔言語学を学んでいた)と以下のように会話するシーンがあります。

「ことばは、人間が生存適応の過程で獲得した進化の産物よ。人間という種の進化は、個体が生存のために、他の存在と自らを比較してシュミレートする―つまり、予測する、という行為を可能にしたの。情報を個体間で比較するために、自分と他人、つまり自我というものが発生した。そもそも『自分』がなければ『他人』もないし、そんな自他の区別がなければ『比較』もできないでしょ。そうすることで、人間はいろいろな危険を避けられるようになり、やがてそれぞれの個体が『予測』した情報を個体間で交換するために、ことばは発生し、進化したの。自分が体験していない情報のデータベースを構築して、より生存適応性を高めるために」
「ことばは、純粋に生存適応の産物だ、ということですね」
「ほかの器官がいまあるのと変わらないような、ね」

この文書は人間の進化論に関する面白い考察です。
図にまとめると以下のような感じでしょうか?

ことばと人間

ことばと人間

他人はあくまでも生存のための『データベース』に過ぎず、
そして『ことば』は他人(データベース)からデータを問い合わせるための器官である
ような事をほのめかす文章です。

実際の進化論、言語学等の研究でこのような認識が持たれているのかは分かりませんが
この考えは今後のWeb環境の発展にも大きくかかわってくるのではないでしょうか。
例えば、ハイパーテキストリンクも人間の思考を真似た文章構造です。
これは『人間の活動をモデル化』し、『電子の世界に落とし込む』という試みです。
このように『自己』と『他人』の関わり合いの形から、新たなネットワーク構造を生み出す
ような研究はあっても良い気がします。(すでにありそうですが。)
ここで重要なのはコミュニケーションの形からそのために最適なネットワーク構造
を考えることではなく、人間のコミュニケーションの形を真似てネットワーク構造を
つくり出していくということです。(ますます、そんな研究ありそう。)

また、現在のWeb構造を人間のコミュニケーションのモデルにあてはめるというのも
なかなか面白そうです。
上述の、「データベース問い合わせ」を「他人との情報交換」にあてはめるといったモデル
などがその例です。

今まで言語学といえばソシュールウィトゲンシュタインのものしか知らず、
また、あまり興味もなかったのですが、このような進化論やネットワーク構成
などの視点とからめて見ると大変面白いものになりそうです。

機会を見つけて言語学も勉強してみようと思います。

Pocket